道をつくる人たちのコーヒー 「El Sendero RL」
グアテマラ北西部、メキシコ国境にほど近いウエウエテナンゴ。その名は、世界中のコーヒー愛好家にとって特別な響きを持っています。標高2,000m近い高地、乾いた暖かな風、昼夜の大きな寒暖差。そして険しい山々が織りなす独特の自然環境。グアテマラ国内でも数多くのCup of Excellence入賞農園を輩出してきた名産地です。
今回ご紹介する「エル・センデロ」は、そのウエウエテナンゴ県のコンセプシオン・ウイスタという小さな町で生まれたコーヒーです。スペイン語で“Sendero”は「道」や「小径」を意味します。この名前には、生産者たちの未来へ続く道を切り開きたいという強い願いが込められています。
エル・センデロ協同組合が誕生したのは2018年。設立したのは元コーヒー生産者のパブロ・ガスパール氏でした。当時、多くの農家は収穫したコーヒーを仲買人へ販売していましたが、代金の支払いは不安定で、全額が支払われるまで何か月も待たなければならないことも珍しくありませんでした。
「銀行が一般の人に融資できるなら、なぜ私たち自身が農家を支えることができないのだろう。」そんな想いから始まった小さな挑戦は、今では700名以上が参加する大きな協同組合へと成長しています。農家は適正な価格でコーヒーを販売できるだけでなく、技術指導や資材支援、農園運営のアドバイスなども受けられるようになりました。
今回のロットを生産したのは、そんな組合に所属する小規模農家たちです。平均面積はわずか3ヘクタールほど。標高1,600〜2,000mに位置する急峻な斜面に農園を構えています。
農園の周囲には「リオ・アスール(青い川)」と呼ばれる美しい清流が流れ、その豊かな水がコーヒー栽培を支えています。コーヒーの木々はチャルムやグレビレアの木陰で育ち、農園にはアボカドやオレンジ、レモン、桃などの果樹も植えられています。山の風を受けながら実るコーヒーチェリーは、ゆっくりと時間をかけて熟し、豊かな甘さと複雑な風味を蓄えていきます。
収穫はすべて手作業。家族総出で完熟したチェリーだけを選びながら摘み取り、農園ごとに果肉除去や発酵、乾燥まで丁寧に行います。果肉は堆肥として再利用され、使用した水も適切に処理されるなど、昔ながらの農業と持続可能な取り組みが自然に共存しています。
スギコーヒーは、このコーヒーを深煎りに仕上げました。ウエウエテナンゴの持つ美しい酸や果実感を残しながら、深煎りならではの甘さとコクを引き出すことを目指して焙煎しています。
カップから立ち上る香りは、上質なカカオやダークチョコレートを思わせる芳醇なアロマ。口に含むと、ビターチョコレートやブラウンシュガーを連想させる濃厚な甘みが広がります。
深煎りらしい力強さを感じながらも、口当たりはなめらかでクリーミー。まるでミルクチョコレートを思わせるような質感が心地よく続きます。そして飲み終えたあと、ふと現れるのがシトラスを思わせる爽やかな果実感です。
オレンジやグリーンアップルのような明るいニュアンスが余韻に彩りを添え、重たさを感じさせることなく最後の一口まで楽しませてくれます。この絶妙なバランスこそ、高標高のウエウエテナンゴだからこそ生み出せる魅力でしょう。
コンセプシオン・ウイスタの人々は、自分たちの町を誇りに思っています。エル・センデロの代表パブロ氏は、「私たちの町がウエウエテナンゴで最高のコーヒーを育てているからだ」と胸を張ります。その言葉を裏付けるように、このコーヒーには土地の力、人の想い、そして未来への希望が詰まっています。
遠くグアテマラの山岳地帯で、家族とともにコーヒーを育てる生産者たち。彼らが歩み続ける未来への道。そして私たちが焙煎を通してつなぐ一杯のコーヒー。
「エル・センデロ」。
その名の通り、未来へ続く道を感じながら、チョコレートのような甘い余韻と山々の風景に思いを馳せていただければ幸いです。
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