【コメント】
サント・アントニオ・デ・アンパーロの丘から、特別な一杯を
サンパウロから北北西へおよそ300km。
ブラジル・ミナスジェライス州の「カンポ・ダス・ヴェルテンジ」に、小さな村サント・アントニオ・デ・アンパーロはあります。
この地では1778年からコーヒーの栽培が始まり、代々受け継がれてきた知恵と技術が今も息づいています。
丘の斜面に点在する小さな農園たちは、この土地の豊かな自然と丁寧に向き合いながら、時間をかけてコーヒーを育てています。
中でもカップ・オブ・エクセレンス受賞歴を誇る「サマンバイア農園」は、スギコーヒーにとって特別な存在です。
私たちがこの農園と出会ったのは2002年、カップ・オブ・エクセレンスでのこと。
一つのロットに心を奪われ、その豆の生産者であるエンリケ・ディアス・カンブライアさんとの物語が始まりました。
以来、23年。
お互いの言葉を超えて、コーヒーという共通言語で信頼を育んできました。
カンブライアさんの家族は1896年からこの地でコーヒーを育てており、伝統を大切にしながらも、常に革新を取り入れています。
彼の情熱は、品質を求めて止まることを知りません。
今回ご紹介するのは、ゲイシャ種・ナチュラル精製の特別なロット。
カップ オブ エクセレンスのナショナルウィナーに選ばれた逸品です。
標高1,000〜1,200m、赤黄色のラトソル土壌、寒暖差のある気候、そして年間1,500mmの雨。
理想的な環境が、豆の成熟をゆっくりと進め、香味の密度を高めていきます。味わいは、口に含んだ瞬間に広がるフローラルな香り。
その奥に、ブラジルらしいナッツ系のやわらかな甘みが重なり、どこか懐かしく、それでいて洗練された印象を与えます。
収穫された豆は糖度を測りながら丁寧に選別され、天日でじっくりと乾燥。
まるで一粒一粒が宝石のように仕上げられます。
このゲイシャが持つ最大の魅力は、一口目から広がる華やかな花のような香り。
その奥には、ブラジル特有のナッツのようなやわらかい甘みが重なり、やさしくも上品な印象を残します。
糖度を計測しながら収穫されたチェリーは、丁寧に選別され、天日でじっくりと乾燥。
発酵や水分量も細かく管理され、一粒一粒に惜しみない手間が注がれています。
その仕上がりは、まるで香る宝石のよう。フィルターでも、エスプレッソでも、余韻までじっくりと楽しめます。
この一杯には、
長い間培った信頼と友情、
伝統を尊び革新を恐れない農園の姿勢、
そして豊かなミナスの自然が詰まっています。遠くブラジルの丘から届いたこのゲイシャは、
単なるスペシャルティコーヒーではなく、
語りかけるような物語を持ったコーヒーなのです。