アンデスの風に抱かれて――ペルー・インカワシのコーヒー物語
標高2,000メートル前後。空に近いその高地では、朝晩の寒暖差がとりわけ大きく、昼は太陽に照らされ、夜は澄んだ冷気に包まれます。そんな自然のリズムの中で、ゆっくりと時間をかけて育つのが、ペルー・クスコ州インカワシ地区のコーヒーです。
ペルーと聞いて、すぐにコーヒーを思い浮かべる方は多くないかもしれません。しかしこの国は、アンデス山脈とアマゾンの境界に広がる豊かな自然環境に恵まれた、世界有数のコーヒー産地でもあります。なかでも南部に位置するインカワシ地区では、手つかずの自然の中で、個性豊かなコーヒーが静かに育まれています。
この地域の特徴のひとつは、小規模で家族経営の農園が多いこと。そして、インカの時代から続く「ミンカ」という助け合いの文化が今も息づいていることです。農家同士が力を合わせて支え合いながら、自然と共生する栽培方法――木陰を利用した「シェードグロウン」や、環境への負荷を抑えたオーガニック農法を大切に守り続けています。
1996年、たった35名の小規模生産者が立ち上げたサンフェルナンド コーヒー協同組合は、現在では約450名の生産者が所属する大きな組織へと成長しました。クスコ南部インカワシのラ・コンベンシオン渓谷に農園が広がっており、サンフェルナンド地区が全体の60〜70%を供給する主要産地となっています。各農園は平均で1.5ヘクタールと小規模で、家族経営による持続可能な栽培を基本とし、栽培から収穫、選別、輸出まで、品質管理を徹底しながら、国内外で高い評価を受けるスペシャルティコーヒーを生産しています。
今回お届けするロットは、ブルボン、ティピカ、カトゥーラといった伝統的な品種をブレンドしたもの。アップルを思わせる華やかな酸味と、ブラウンシュガーのようなやさしい甘さが特徴です。酸味が際立ちすぎないよう、やや深めに焙煎することで、コクと甘さのバランスが取れた味わいに仕上げました。
アンデスの自然、農家の想い、そしてコーヒー豆が過ごしたゆるやかな時間。そのすべてが一杯のカップに詰まっています。ペルーの静かな情熱を、ぜひご自宅で味わってみてください。
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